2012年3月31日土曜日

GERT・HOLBEK とパイプの楽しみ(Ⅱ)  MEERSCHAUM, DUNHILL, CHARATAN


 2012年3月15日の投稿、「パイプの美しさ」(Ⅰ)では、35年以上前に購入して、気に入っていつも身近に置いているGERT・HOLBEK(ゲルト・ホルベック)のジュビリーのフルストレートグレインパイプとMEERSCHAUM(メシャム)のビリヤードタイプを見ていただきました。そのメシャムはバーミンガムのシルバーホールマーク付きで1895年作の古いパイプでした。今回はタコの倉庫にしている部屋の押し入れの中から新たに探しだした使い古されたパイプたちと、特に大切にしている彫刻メシャムに登場してもらいます。彫刻メシャムの歴史は古く、200年以上の伝統があるようです。前回もパイプの魅力について書きましたが、気に入ったパイプを大切に使い込んだ前の持ち主の気持ちがズーンと伝わってくる作品がタコにはすごくしっくりきていいんです。それをまた自分が長く大切にしようと思います。そして使い込む。タコはその感覚が大好きなのです。古美術品も骨董品もパイプも同じ。メシャムのように何世代にわたり愛用されてはじめて、いい飴色のタールの染みこみが楽しめるのです。
  下写真の頭骨のメシャム・パイプは、10年くらい前に手に入れました。


 シェークスピアWillima Shakespeareの悲劇「ハムレットHamlet」終幕に近い墓場の場面で、墓堀人の掘り出した、父王の道化であったヨリックの頭骨を持って、世のはかなさを嘆くハムレット。このメシャム作品はそのハムレットの手がヨリックの頭骨を持っている図Hamlet's hand holding Yorick's skullと断定できます。頭骨は実物を詳細に観察して、細部にわたって非常に精密に彫られています。タールも微妙に計算された染みこみ方です。タコはある時、骨董市を散策中に、かなり昔から付き合いのある骨董商の店でこの作品を見つけ、手に入れました。ボウルからステムのデザインである袖が、17世紀から18世紀のヨーロッパ貴族の服の袖のデザインであることから、このメシャム・パイプの題材がヨリックの頭骨を持つハムレットの手であると一目で推測できました。17世紀18世紀ころのヨーロッパ貴族が頭骨を手にする話と言えば、まずハムレットが思い浮かびます。シェクスピアは大好きな作家の一人で、小学校4年生10歳の時に父に連れられて観た黒沢明監督Film Director Akira Kurosawaの「蜘蛛の巣城Kumonosu-jo/Throne of Blood 」(1957)はシェークスピアの悲劇「マクベスMacbeth」を戦国時代の日本に置き換えて作られた映画で、幼いながらもタコはこの映画からすごいインパクトを受け、子供ながらに感動しました。タコが古美術、特に高校生の時に日本刀の美しさに魅せられた遠因はここにあると思います。「蜘蛛の巣城」の日本美術、特に武具甲冑の美しさと映像美は子供のタコに人生が変わるような大きな衝撃を与えたのです。その後、黒沢監督の映画は全部、何度も観ました。また黒沢映画についてこのブログに書いてみたいと思います。
 さてこのメシャムの制作年代はシルバーホールマークなどの確たる証拠がないのではっきりわかりませんが、タールの染みこみ具合から推測すると少なくとも100年以上は経過しているでしょう。


 もう一枚の上の写真は愛しい、使い古されたCALABASH(キャラバッシュ)やBRIAR(ブライヤー)パイプたちです。ないと思っていたパイプたちが押し入れの奥から古い李朝の皮の箱に入って出てきたのです。見つかってよかったー。生まれのいいDUNHILL(ダンヒル)やCHARATAN(チャラタン)から名もなき作品までさまざま・・・中にはタコ18歳の時からの絵と骨董の先生である故・武田二郎先生から生前にいただいたダンヒルのフィッシュテールのサンドブラストのやや小型のパイプ(下写真)もありました。先生によって使い込まれ、すり減ったダンヒル。先生が喫煙をやめられた時にいただいた遺愛の一本です。先生の経営していた古美術店や行きつけの飲み屋で紫煙をくゆらせていた姿を思い出して、とても懐かしいパイプです。


 使い古されたモノにはそれなりの良さ、味わいそして思いでがあります。タコはそれをとても大切にしていきたいと思ってます。今はもう使われない「愛しいオールド・パイプたち」。時間と思い出だけが静かに経過してゆきます。
  そうした中にイギリス・ロンドン製のCHARATANSELECTEDSUPREME2本もありました。タコは昔、CHARATANBELVEDEREという深紅の味わい深いパイプを愛用していたのですが、どこを探しても見あたりません。S・イヴァルソンの作品やラールセンの作品も見あたりません。どうやら、露店で骨董修行をしている時に欲しいという人に売ってしまったようです。今ではこの2本のチャラタンをながめて楽しませてもらってます。共に木目はストレートグレインです。


 さらに、GERT・HOLBEK(ゲルト・ホルベック)の作品(写真下)。ブラック・サンドブラストの繊細な感じの小ぶりのパイプが出てきました。さすがホルベック!デザインがいい。吸い口に向かって直線的にかすかに開いたバランスのいいマウスピース。これだけでもう十分感心。PIPE・DAN独特のチムニーを思わせるスカッとしたやや長めのボウルにシャープなステム。うーん・・・はやり、この姿こそホルベックだと改めて感心しました。スピード感あふれるデザインの歯切れ良さは彼の持ち味ですが、この小品にもそれがいかんなく発揮されています。木目はストレートグレインのサンドブラスト。PIPE-DANの刻印とHOLBEKの刻印あり。タコのほれ込む小粋な一本です。


GERT HOLBEKのブラック・サンドブラスト作品 シャープな感覚はさすがHOLBEK

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2012年3月17日土曜日

沈丁花(ちんちょうげ) 可憐な花が咲きました。


固く閉じている蕾み


咲き始めた花
小さな手鞠のようでかわいいです
 
    毎年中野駅に向かう道に植えられていた沈丁花が咲くのを楽しみにしていたのですが、駅前の拡張工事でその沈丁花の植木も取り払われてなくなってしまいした。やむなく植木屋さんに頼んで手頃な鉢に植えた沈丁花を持ってきてもらいました。昨年は、あまりの素晴らしい香りに、ベランダに置いておくのがもったいなくなりました。自分はもちろん、生徒さん達にも楽しんでいただきたい、と鉢ごと教室に置いたのです。部屋はたちまち沈丁花の芳香で満たされ、夜には一段と濃くなりました。しかし、まだ2月のことで、暖房が強かったのか、あっという間に花も葉も乾燥して、2~3日で見る影もなくなりました。「だから言ったではありませんか!」アシスタントがブツブツ言いながら、ベランダに戻すのを承知せざるを得ませんでした。
 さんざんな目にあわせてしまったかわいそうな沈丁花ですが、頑張って元気を取り戻してくれました。丈夫な木です。この木は土を乾かし気味にした状態を好むので、頻繁に水やりを要しないところも、タコにピッタリです。季節は巡り、2年目の春となる今年はやや遅い3月に入って待望の花が咲き始めました。まるで沈香(香木)の如き良い香りの、丁子(Clove)のような花を咲かせることから、沈丁花と名付けられたそうです。今年はそっと一枝だけ切り、朝鮮の秋草文白磁徳利に生けてみました。それでも、十分に甘く優しい香りを室内に漂わせ、春の訪れを感じさせてくれます。今年はしばらく楽しめそうです。清楚でかわいい、大好きな花です。


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2012年3月16日金曜日

「世界最古の動物壁画3D 忘れられた夢の記憶」   ショーヴェ洞窟壁画 32000年前のすばらしい絵画



タコによるショーヴェ洞窟壁画のデッサン
僕にとって、初の3D映画体験は、かれこれ5-6年ほど前の大英博物館でのことでした。それは、ミイラの胎内に入る映画で、カルナック神殿の上を飛ぶ立体感に目が回るような驚きと錯覚を覚えたものです。今では3D映画の公開数もかなり増えていますが、大半はアクションやアニメなど娯楽映画を中心としているようです。そんな中、今回観た記録映画、「世界最古の動物壁画3D 忘れられた夢の記憶」の真面目な取り組みに方に感動しました。1994年に南フランスで洞穴学者・Jean-Marie Chauvetにより発見されたことから、ショーヴェ洞窟と呼ばれる閉ざされた空間をじっくりと見せてくれます。外気や二酸化炭素による浸食を防ぐ為、一般には非公開となっている洞窟内の3万2千年前の壁画について、限られた期間内に、厳選された学者と技術者のみに調査と撮影を許可して作成されたドキュメンタリーです。
 他の旧石器時代の壁画では、馬や牛、トナカイ等の絵が一般的なようですが、ショーヴェ壁画には、現在では絶滅した種も含む、ライオンや豹、熊、ハイエナ等の猛獣やフクロウ、サイまで描かれているのも特徴です。絵そのものに動きがあり、動きのコマがダブって描かれたり、まさに現代アニメに肉薄する、ないしは現代アニメ以上の素朴さ、力強さ、アイデア、迫力をもっています。バイソンなどの線の美しさ、表現方法は比類なく、この絵を描き上げた太古の人(一説にはネアンデルタール人とも考えられています)の素朴な感性の素晴らしさを十分にあらわしています。3Dだけあって立体感があるから、見応えがあり、制作意図は成功しています。素晴らしいの一言につきます。描いた太古の芸術家はたいまつを片手に、もう片方の手に持った筆ともいえる何本かの太さにの違う枝の先にたいまつの火をつけては消し、その炭を擦りつけながら自在に描いたのでしょう。自分の頭の中の動物の姿を思い浮かべながら描いたのです。
 動物の絵以外にもおもしろい壁画があります。同人物の手形が集中的にあしらわれている場所です。なんと、「吹墨の技法」、すなはち置いた手に上から顔料を吹き付けて手を白く抜く技法も使われています。これは驚嘆すべきことです。それは文字のない時代の芸術家のサインのつもりなのか、呪術的な意味合いなのかわかりませんが、狩りの豊饒、豊かさを祈っての絵画であることは間違いありません。芸術的な約300の絵画が残されている点から現代的な意味においても特筆すべきものです。2012年3月3日から3週間限定で六本木ヒルズ等TOHOシネマ系で上映中ですが、3月16日で終了するところもあるようです。
この映画の公式サイト: http://www.hekiga3d.com/

映画をご覧になれない方も、日本語その他様々なサイトでショーヴェ壁画をご覧になれます。英Chauvet Cave,、仏La Grotte Chauvetでも検索してみてください。

フランス政府によるショーヴェ洞窟の公式サイトhttp://www.culture.gouv.fr/culture/arcnat/chauvet/fr/
フランス語のwikipedia http://fr.wikipedia.org/wiki/Grotte_Chauvet
英語のwikipediahttp://en.wikipedia.org/wiki/Chauvet_Cave

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2012年3月15日木曜日

GERT HOLBEK  と パイプの美しさ(Ⅰ)BRIARとMEERSCHAUM



●豹の皮ケースがよく似合う ホルベックGert Holbekのフルストレートグレインのパイプ

 先日、書類を整理していたら25年前に自分で書いたエッセイ風の文章がまとまって出てきました。読み返すとパイプについて書いてあり、懐かしくてこのブログにもまた書きたい気持ちになりました。そもそもタコがパイプに親しむようになったのは大学に入学したあたりであったと思います。あまりの美しさから刀剣の鑑定の勉強にのめりこみ、受験勉強をおろそかにした結果、20歳で大学の門をやっとくぐることが出来た始末で、みなさんより2年遅くなりました。従って入学してすぐに堂々と飲酒喫煙ができたのです。しかし大学での4年間も重要な期間でしたが、2年間の浪人時代に学んだ刀剣の鑑定と古美術の鑑定の勉強成果の方が今の自分を基本的に支えてくれているというのも皮肉なものです。
 タコの美術の先生の武田二郎氏(画家で、藤田嗣治ことレオナール・フジタLeonard Fujitaの弟子)がパイプ好きで、いいダンヒルの使い込んだ古いパイプを愛用されていたので、そのかっこよさとタバコの香りの良さに影響を受けたのでしょう。嫌煙が当たり前の今日ですが、当時はみなさん煙草をバンバン吸っていたし、嫌煙のケの字もありませんでした。武田先生もいつも中野の古美術のお店でパイプの紫煙をくゆらせていました。タコはその後45歳の時に、喘息のような咳が止まないので医者に診てもらったら体質的な咳とのことで、その時から煙草を完全にやめました。医師から朝と夜に水を浴びなさいといわれ励行しました。真冬でも水をかぶりました。夏の水はぬるいので、冷蔵庫で冷やした冷たい水を浴びました。そうしたら始めて数週間で嘘のように苦しさはピタリと治りました。この水浴びが趣味のように止められなくなり、5年ほど続けました。やめた今でも健康そのものです。日本を日露戦争で救った軍人の一人で、僕の尊敬する児玉源太郎大将が水浴びを励行したとあとで本で知り、少なからずうれしい気持ちになったりしました。
話が横道にそれましたが、禁煙をしていてもパイプの収集は止まらないのです。その美しさはいまだにタコを魅了して止まないのです。


  ではなぜそんなに素敵かというと、その素材と姿と形、バランス、それに使い込まれた味わいと変化、木目(木理)。それらが美しいのです。素材にはいろいろありますが、大きく分けて2種類あります。ブライヤーBRIARとメシャムMEERSCHAUMです。ブライヤーはホワイト・ヒース科の灌木で、地中海周辺に生えている木です。その根の部分からつくり出されます。その木にはグレイン、すなはち木目がきれいに出ますが、完全に美しいもの、キズのないものがきわめて少ないのです。何万本に一本の確率でよいグレインのパイプがあります。勿論よい作家のところに良いグレインのブロックが持ち込まれますから、やはり一般的にも評価が高く、自分の好みの作品を創る作家の作品の中から選ぶことになります。この木目。これが重要で、この木目をいかに有効に、しかもその木目に合ったよいデザインに仕上げるかが作家のセンスであり腕です。木目にわずかなピンホール(針のような小さな穴)やキズがでてきても評価は下がります。もうこれは偶然の世界、運がいいか悪いかの世界です。だからこそおもしろいし、すばらしく、美しいパイプに出会ったときには、それはもうすごく幸せな気持ちになれるのです。木目の美には、クロスグレインcross-grain、フレームグレイン、バーズアイbirdseye-grain、ストレートグレインstraight-grain、フルストレートグレインfull straignt-grainがあり、それらはそれぞれの個性と美しさを秘めています。作家はその木の持つ個性をどう表現するか、それが作家のセンスです。
もう一つの材質はメシャム(ドイツ語のMEERSHAUM:海泡石。海の泡のように白い柔らかい石)でできたもので、長年使うとタールが石に染みこんで、オレンジ色から半透明の深い褐色のみごとなすばらしい色を出すします。良い物は大半が100年以上使われたものです)次回かその次くらいにこうした古いパイプコレクションがおもしろいか書きます。今回はとりあえず私の秘蔵の二品の写真を掲載します。
まず一本目はデンマークの代表的作家、ゲルト・ホルベック(GERT HOLBEK)ジュビリー・シリーズの一本。1974年11月制作のものでフルストレート・グレインのコレクター垂涎の名品パイプ。デンマークのパイプ・ダンPIPE DANから販売されたものの一本。ジュビリー(JUBILEE)シリーズはアンバサダー(AMBASSADOR)シリーズより木目がよく、ストレートグレインないしはフルストレートグレインに限定されます。当然価格的にもワンランク上のシリーズということになります。形上の違いは口の上面が平らなのがアンバサダーで、丸味をおびてふっくらしているのがジュビリータイプといっていいでしょう。

 昔、原宿のパレ・フランスにジェームスⅠ世という喫煙具専門店があって、その店主、Mr.INOUEから譲ってもらいました。懐かしい思い出です。そう、今思い出しましたが、Mr.INOUEからはダンヒルのすばらしいシェル・パイプを譲ってもらいました。またこのブログに登場させたいと思います。このように彼はいいものに目がない粋な店主でした。ホルベックは無理して買った覚えがあります。何でもそうだと思いますが、頑張らないと飽きのこないいいものは買えません。

高額といえばヨーン・ミッケJOHN MICKE(1938~2005)という作家のパイプですが、タコもミッケ自身が使っていた比較的すっきりした長めのパイプを持っていましたが、長すぎて先にモーメントがかかりすぎて、くわえにくく重いのです。どうもタコとしてはホルベックのこの一本の方が材質もデザインも、奇をてらったところもなく好きなんです。タバコを吸うという観点からみてもシンプルで気品にあふれ、かたちも美しく実用的で、より洗練されています。あらゆる意味でゲルト・ホルベックという作家の性格と、ものづくりの姿勢そのものが作品に投影されています。これ以上に明快で完璧なハンドシェイプはないと思います。

 タコはどうしても趣味の領域では自分の好き嫌いが出てしまうのですが、ミッケの俗称「琉金」という一連の作品が好きになれないのです。それらは世に「ミッケの名品」とか「幻の芸術品」ともいわれますが、果たして本当にそうでしょうか?ちょっと名の知れた誰かが最初に「すばらしい名品」とか「絶品」とかいうと、右へならへが日本人の習性であることが多いです。実際にミッケの作品はそうした一部の心無いコレクターの買占めにあい、投機的に値段がますます上がったといわれます。パイプ愛好家がそんなことをするなんて、とんでもないことです。そんなことより、実際にみなさんがあのミッケの「琉金」を日常くわえて喫煙を楽しめるかどうかです。それは自由ですが、私には無理なんです。

 パイプは喫煙具、すなはち道具です。メインの目的は「鑑賞」ということではなく、「使う」ということにある訳で、本来芸術品を作る目的では生まれ得ないものなのです。あくまで使うという目的にそわないといけない。重いのも良くないと思う。やはりある程度軽くてくわえ心地の良いものが、優れたパイプでしょう。

 工芸と芸術は相容れない部分を持っていますが、ホルベックの場合はまず工芸としての完璧な技術が作品を支え、もちろん奇をてらわないスッキリした「用の美」(パイプはそれが一番大切だと思う)を兼ね備え、それでいて歴史的にも美術的・文学的にも、さらに哲学的にも教養高いデンマークの国民性がそのデザインの背景をなし、気高く見た目に心地よく、美しく、最後に芸術的ですらあるのです。そのバランス感覚がホルベックの場合、すばらしい。本当に自分が20歳後半の歳で、よくこのホルベックの作品を頑張って買ったと、当時の自分を褒めてやりたいと思うくらいです。そうした意味でもホルベックは本当に珍しい事例、例外ともいえる作家であり、すべての面でタコの納得のいく作品づくりの姿勢を見せてくれる「世界一」のパイプ作家です。
後にこうしたホルベックの才能を、デンマークを代表する銀食器・銀装飾品作りの名門、ジョージ・ジェンセンGEORG JENSENが認め、彼をデザイナーとして迎えたことも、当然のこととしてうなづけるのです。


●ゲルト・ホルベック(GERT HOLBEK)
(デンマークのパイプ作家:後に銀製品で有名なジョージ・ジェンセンGEORG JENSENのデザイナーに転向)
フルストレート・グレインの完璧で最高にすばらしいジュビリー・タイプのパイプ。
吸いやすさ、形状、見た目の美しさ、すべての面でタコ絶賛、惚れ込んだ逸品!

もう一本はメシャム、すなはち海泡石のオーソドックスなデザインの作品で作者は不明、というよりこの作品が制作されたのは1895年(このパイプにはイギリスの商業都市バーミンガムBirminghamの銀取引所のイングリッシュ・シルバー・ホールマークEnglish Silver Hallmarksが刻印されてます)で、パイプの個人作家など一人もいなかった時代に違いないのです。これもすぐれた職人さんの腕になる素敵な逸品です。かれこれ117年も使い込まれてきたにもかかわらず無傷の作品。こちらはタールの染みこみが非常に素敵でほれぼれするほど美しく、ホルベックと同様に私の「宝」の一本です。

25年くらい昔、古美術のプロとしての修行時代に露店の骨董市でかなりのコレクションを売ってしまい、今では気に入った数本だけが手元にありますが、その残りの作品を次回以降ご紹介いたします。

●メシャムの使い込まれたすばらしいパイプ
恐らくなめし皮に包まれて使用されてきたのであろう。
状態が完璧でタールの染みこみが美しい。
本来は真っ白な状態であった。

●1895年イギリス・バーミンガムのホールマーク
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2012年3月5日月曜日

名古屋 栄・中日カルチャーの古美術・骨董講座



 月に2回、僕は名古屋に出張します。栄の中日文化センターで「たのしい古美術・骨董」講座を受け持つようになってから、かれこれ8年目になります。僕の講座では古美術・骨董品を実際に手にとって細部まで見ていただくのがモットーなので、重く、嵩張る教材を東京から運ぶのは、楽ではありません。それでも、毎回張り切りたくなるのは、生徒さんが明るく熱心な方ばかりだからです。名古屋人気質なのでしょうか、皆さん気さくでとても活気があります。写真は今年一月、講座後の新年会の様子です。とても賑やかで楽しい会でした。

 僕は、東京で生まれ育ちましたが、仕事で神戸に住んだ時期もあり、関西には縁があるようです。名古屋の大須観音の骨董市も好きで時間がある時は訪れます。京都の東寺骨董市や北野天満宮骨董市も大好きです。行けば必ずいるなじみの業者の店で世間話をしたり、珍品を見つけて買ってしまうこともあります。東京と違う名古屋、関西ならではの雰囲気があり、おもしろいです。

 名古屋はその独特の食文化でも有名ですが、味噌煮込みうどんや櫃まぶしは、評判を呼ぶだけのことはあります。勿論、他にもおいしいものはたくさんありますが、僕は大抵この二つのうちどちらを食べて帰ろうか、迷います。前回の名古屋出張はとても寒かったので、山本屋本店の味噌煮込みうどんへ・・・。愛知県内に何件かあるようですが、便利さからいつも名古屋駅太閤口地下エスカか栄の中日新聞ビル下の「山本屋・本店」に行きます。

 冬は何と言っても牡蠣入りが楽しみです。写真では見えにくいのですが、いつも大きな牡蠣が中に五つ入っています。まずいつものようにレンゲで熱い八丁味噌仕立ての汁を一杯。う~ん、うまいッ!これがタコの至福の時です。味噌煮込みうどんには、漬物が付いてくるのですが、下ろし生姜と専用の醤油と七味唐辛子にからめていただくのが、実においしいのです。お漬物は、おかわり自由なのも嬉しい。すごくおなかのすいた時は、このお漬け物でご飯をまず一杯。これがお勧め。それからうどんをいただきます。尚、名古屋の方々は、鍋のフタを左手に持ち、そこにうどんを一旦取り、それからいただくのが流儀だそうで、ぼくもそんな風にしていただいてます。うどんが滑って落ちて汁が飛び散ることがないので服もテーブルも汚さず、またうどんもフタで熱さが緩和され、食べやすくなるとともに、お行儀よく食べるよい方法であることに気がつきました。さすが名古屋、これは東京にはないすばらしい習慣です。

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