2012年9月7日金曜日

岐阜・ロイヤル劇場で見た「サンダカン八番娼館」 

ロイヤル劇場のチラシ
今年の4月から、岐阜の中日文化センターでも古美術・骨董講座で講師を務めているので、講座の後で時間があると、近辺を散策することもあります。以前にこのブログで旬の鮎をいただいた時の事を書きましたが、8月の夏休み前に柳ヶ瀬を歩いてみました。1966年、美川憲一の「柳ヶ瀬ブルース」が大ヒットして全国的に名の知られるようになった歓楽街です。
 今はかつてのにぎわった面影のない「ロイヤル劇場」の昭和レトロな雰囲気にひかれ、入ってみました。上映作品「サンダカン八番娼館 望郷」は以前に観たことがありましたが、こんな昭和の名残みたいな映画館で観るのもいいなと思い、切符を買いました。
 1974年の東宝映画です。明治時代、天草からボルネオのサンダカンにある娼館に渡った日本女性に取材したノンフィクション作家・山崎朋子の原作をベースに描かれた作品です。


 家族を養う為に「からゆきさん」として異国に売られ、やっと年期があけて帰国すると、恥部として扱われ、人里離れた掘立小屋で孤独に貧しい晩年をおくる老婆サキ。この主人公を演じたのは、当時64歳の田中絹代です。確か、当時は久々の登場で大変話題になり、彼女にとって最後の出演作だったと思います。しばしば「いぶし銀のような女優」と評された田中絹代の演技にぐいぐい引き込まれました。閉ざされたサキの心を開き、彼女の「ふれられたくない過去」を聞き出そうとする役回りの栗原小巻は、当時、日本の国民的女優でした。(特にファンではありません(._.)念の為・・・)舞台女優としての癖の抜けない栗原小巻のセリフ回しと対照的に、元からゆきさんを演じる田中絹代は、どこまでもナチュラルに、するすると観客の心に入ってきます。時には頑なな老人になり、時には子供のように無邪気になり、観る者の心を揺さぶります。そのすばらしい演技に感嘆しました。ベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞したのもうなずけます。
 若き日のサキを演じた高橋洋子も良かったです。彼女の聡明で清潔感のある美しさが、貧しさゆえに異国の娼館で働かなければならない素朴な娘の残酷な境遇を際立たせます。身も心もボロボロになっても、家族の為に生き、働き、そして故郷に帰る。その本能的な逞しさがたまらなく悲しいです。
 サキが帰国する頃、日本も豊かになり、彼女の家族も幸せに暮らしています。仕送りで生活を支えてくれたサキに恩返しをするどころか、彼女と一緒に暮らすことを恥とします。彼女のような人々の犠牲の上に豊かになったのは、その家族だけではなく、国自体でもあることを、忘れてはならない、とこの映画は伝えてくれます。
 バブルも遥か昔、不景気ばかりが話題になる昨今ですが、からゆきさん達が生きていたら、どう映っているのかな。数えるほどの入場者の、ひっそりと静かな柳ヶ瀬のひなびた映画館でしんみりしたタコでした。こういう映画館が今もあるんだぁ~。

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