2012年2月6日月曜日

大好きな猿投長頸瓶について

 僕の好きな作品の一つです。

 愛知県共済のインターネット講座で、1年(12回)の予定で執筆している「わび・さびについて」の5回目でこの作品について触れました。
 形もよく、窯の中で焼かれた時に隣の作品が倒れかかってきたのか、左に大きく傾いていますが、それが何とも愛らしく、「いい作品だなあ」とつくづく思います。

 日本に須恵器の元になる黒い還元焔焼成のやきものが伝来したのは、弥生時代が終わり、古墳時代が始まって間もない5世紀といわれています。朝鮮半島からの最新のやきもの技術が入ってきたのですから、それは権力者のやきものであったのでしょう。

 それまでのやきものは縄文土器や弥生土器のように、たき火の大がかりなものの中で焼かれたと考えればよいと思いますが、野焼きというレベルでの焼成でした。

 ところが渡来人たちのもたらしたやきものの技術はより高度なものでした。窯を使い、高温で焼成する技術はそれまでの日本にはないものでした。ろくろも使うので美しく仕上がるから尚更貴重なものでした。その多くは副葬品、すなはちあの世へのお供として埋葬されました。

 この作品は8世紀の半ばから後半にかけて、愛知県猿投山近辺で焼かれたと考えられます。まだ猿投の釉薬の発見される前であり、形に朝鮮の統一新羅のやきものの面影がみられます。たとえば口の形状とか、胴体全面に波状文が施されています。この作品はかなり前に懇意の骨董商の方から購入しましたが、野の花などの和花を差してみると、とても良く映えるのです。こんなとき、日本の花は美しく可憐で、品があり奥ゆかしく本当にすばらしいと改めて思います。

 釉薬が前面に垂れて、それもちょうどいいところで自然釉の流れが止まっている。これはまさに「神の業」というしかありません。「神々しい作品だなあ」と思います。ゆがみも自然、釉の流れも自然、投げ込む花も自然。自然という日本文化の源流にふさわしい作品といえます。いつまでも手元に置いて楽しみたい作品の一つです。猿投はとても渋いので、その良さは写真ではなかなか伝わりにくいかもしれません。しかし、日本人の美意識の根底にあるものですから、実物を手にすれば、きっと魅かれることでしょう。そこから、やきものをより深く楽しめるようになります。

 さて先日猿投に関するテーマの講座を行った際も、この瓶を鑑賞作品の一つとして生徒さん達に御覧いただきました。外は強風で大変寒かったので、熱いお茶のお供に「雪の華」と名の付いたお干菓子をお出ししました。和三盆は柔らかみのあるおいしいお菓子で、大好きです。淡くて、きれいで、かわいいお菓子です。中皿なので、奇数などのお約束事に捕らわれず、皆様に気軽に召し上がっていただけるように、タコ流・自由に並べてみました。中国南宋時代の龍泉窯の青磁輪花十二弁花皿です。意図して集めたわけではないのですが、知り合いのお店で一枚、露店のあちらで一枚、こちらで一枚と状態の良いものを買っている内に、3枚同じデザインが揃いました。五枚揃えたいですね。これも実は南宋官窯の色合いに近い名品なのです。同じと言っても、もちろん厚みや出来映えがほんの少しずつ異なるところがまたおもしろいです。

日本骨董学院 http://www.kottou-gakuin.com/

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