2017年8月20日日曜日

ハインリッヒ2世夫妻の大理石棺

 前回の投稿では、僕が子供の頃から憧れていたドイツのバンベルク大聖堂の騎士像に、念願かなって4年前に会いに行った時のことを書きました。その騎士像が見守る神聖ローマ帝国皇帝ハインリッヒ2世夫妻の大理石棺についても書かずにはいられません。

バンベルク大聖堂の中で騎士像に見守られるハインリッヒ2世夫妻の大理石漢棺
  この見事な棺の彫刻は、僕の好きな彫刻家リーメンシュナイダーの手によるものです。今までに観た彼の作品の大半は木彫作品でしたが、この大理石の棺は彼の代表作と言える、ずば抜けて素晴らしい仕上がりでした。



 さて、この時のために、日本から持ってきた重くて嵩張るスワロフスキーの双眼鏡EL10×42 6.3°が威力を発揮してくれました。国内外の名だたるメーカーの様々な双眼鏡を試した末、これに勝る視野の広さ、明るさ、解像度のものはなく、おそらく世界最高峰の双眼鏡だと思い購入したものです。この双眼鏡で騎士像や皇帝夫妻の棺はもちろん、柱の彫刻群を詳細に観察、鑑賞することができました。


  祭壇の上から観たり、近くから観たり、双眼鏡で観たり、時間の過ぎるのも忘れるほどの見事なDom内陣です。 


Dom内陣のパイプオルガン
  このロマネスク大聖堂建立年代とバンベルク騎士像の成立、リーメンシュナイダーの活躍年代はそれぞれがかけ離れて統一性を欠きますが、長い年代を経てきた宗教と美術と歴史がそれぞれをバランスよく結び付けてきたのでしょう。


  もちろん初めにハインリッヒ2世がDOMを建設した後亡くなり、当時の棺に納められ、後に名のあるマイスター彫刻家が騎士像を製作して棺を守る柱の位置に据えられたと考えられます。記録によればハインリッヒ2世は973年生まれで、1024年に亡くなっています。騎士像はほぼ1200年代、13世紀の制作と考えられており、またリーメンシュナイダーは1460年頃の生まれで、1531年に亡くなっています。

  棺の制作年代も記録に残っており、1499年から1513年の間とされています。神聖ローマ帝国国王夫妻の遺骸は新しい棺に入れ替えられ、長い年代を経てこのDOMの姿が形成されてきたことがわかります。そこには多くの信者、国王、様々な寄進者、製作者の想いが重なっているのです。

2017年8月7日月曜日

バンベルク騎士像を観て

バンベルク騎士像
 4年前、人生の区切りというと大げさですが、行ける時に行きたいところに行って観たいものを思い切り観たい、と35日間自由にヨーロッパを旅しました。当時は1ユーロ100円という円高だったのも幸いしました。
 最も行きたかったドイツに最初に行き、かつての東ドイツだったベルリンを気ままに歩き回りました。
 帰国後、時折この旅の思い出をブログに綴っていたのですが、やがて日常の仕事や雑務に追われ、更新することも少なくなってしまいました。昨今のテロで、ヨーロッパもなかなか行きにくくなり、あの時行っておいて良かった、と思うこの頃です。エジプトについても同じです。そんな気持ちで当時の写真を整理している内に、また旅の楽しさが蘇ってきました。


ブランデンブルグ門
 僕が小学校3年か4年だった頃、父がドイツ人からいただいた蔵書に、ドイツの戦前の写真集がありました。ひげ文字でなにやら書かれていて、もちろん全く読めませんでしたが、古き良き時代のドイツの雰囲気がとても魅力的で、よくその大好きな本を手に取っては見ていたものです。子供の僕には未知のドイツやベルリンの街並みや、ローテンブルクの街の様子が写っていました。美術についてもたくさんの作品を紹介していて、例えばデューラーの「騎士と死と悪魔」などの写真には、なんとも不思議な怖い印象を受けました。


 その後日本で唯一、高校でドイツ語を専修として教えてくれる独協高校に学び、大学もドイツ語で受験し、ドイツ文学科に進み、哲学、ドイツ文学、音楽に親しんだ経緯を考えれば、いかにその本の影響が大きかったかがわかります。普段子供が目にすることのないような多くの美術品をその本を通して眺めていたことなども、今の仕事にもつながっているようです。バンベルク騎士像に出会ったのも、この本でした。馬に乗ったすがすがしく、美しい騎士像は小学生だった僕を魅了しました。

 その憧れのバンベルク騎士像に会うために、僕はようやく中部ドイツの中世都市バンベルクにやってきました。
日本を旅立って早1か月になろうとする頃、11月末のミュンヘンで楽しみにしていたクリスマス市に足を運び、ダッハウの強制収容所跡にも行ってから、列車でバンベルグに向かいました。
 着いたのは雨の夜。紅葉を過ぎたバンベルクにも、冬に入ろうとするドイツの寒さが訪れつつありました。翌日、ホテルからレグニッツ川に沿いに散歩しながら、聖堂(DOM)の見える方向に進みました。やがて入り組んだ城下町に入り、骨董店やクリスマス用品を売る店をのぞいたりしながら曲がりくねった小高い丘をのぼること15分、急に大きな広場に出ました。はっと見上げると、重厚なドームが聳えていました。すり減った重々しい石の階段を上がりDOMの扉を押しました。時代の重みを感じさせる、樫のようなどっしりとした木でできた巨大な扉です。実際、重量もかなりあり、力いっぱい押してやっと開けたものです。中は暗く、通路の左サイドにはこのDOMの建立にかかわった人たちの像らしき石像が私を見下ろしています。しばらく歩くと、礼拝堂の前にでました。背景のアーチ形の窓から後光のように光が降り注いでいます。
 僕はロマネスク様式の建築が好きですから、あーすばらしいなあ・・と感心しながら眺めていますと、僕の真上から見下ろすように馬に乗った騎士像が突然視界に入り、ドキッとしました。子供のころに飽きもせず見ていた大好きなバンベルク騎士像!とうとう実物に会えた喜びは、頭上からいきなり襲ってきました。

階段横、向かって右の囲いの中にハインリッヒ2世夫妻の棺があります。

 この像はバンベルクの大聖堂(DOM)の礼拝堂入口すぐの左上にあり、神聖ローマ帝国皇帝ハインリッヒ2世夫妻の棺を真下に見守る形で、柱の中間に配置されています。棺を柱の真ん中から見守る感じです。実際に訪れてみないと、そのあたりの様子はわからないものですね。荘厳なロマネスク様式の大聖堂の中には、老人夫婦と私しかいませんでした。とても静かです。小学生だった僕には遥か彼方の存在だったあの騎士像と、こうして対面できる日が来るとは・・・。中世ドイツの騎士の持つ高貴で誇り高き姿に、改めて感動しました。