2012年1月30日月曜日

三宝柑福居袋(サンポウカンフクイブクロ・みすゞ飴本舗/株式会社飯島商店)




 今年に入ってからの冷え込みは、寒さに強いつもりだった僕にとってもキツイです。でも、冬限定の楽しみもいくつかあり、その一つがこの三宝柑福居袋(サンポウカンフクイブクロ)です。僕はわらび餅やゼリー、寒天など、プニュプニュした食感が子供の頃から大好きですが、このゼリーは味も香りもまた格別です。

 紀州田辺の採れたて三宝柑の実をくり抜き、フレッシュ果汁をゼリーにして、香り高い皮の容器においしさを丸ごと詰めてあります。果皮が軟らかいので、六つ切りにしていただくこともできますが、天然の容器を切るのが惜しくて、そのままスプーンですくって、一人で一個食べてしまいます。艶やかな緑の葉付きの可愛らしい三宝柑は、食べ終わった後もしばらく眺めていたくなります。あまりにも美しい黄色なので、僕はスケッチして楽しんだり、網袋に入れてお風呂で香りを楽しんだりします。心身共に癒してくれる、至福の一時を味わえて、僕にとって三度楽しめる、まさに三宝柑です。

 Wikipediaによると、三宝柑(サンボウカン、学名:Citrus sulcata)は、文政年間(19世紀)に和歌山藩士野中氏の邸内にあった木が原木と伝えられ、その珍しい果実を第十代藩主の徳川治宝(とくがわ はるとみ、德川 治寶)に献上した際、「三宝柑」と名付けられたそうです。「その珍しさ故に三方に載せて和歌山城の殿様に献上されていた」のがこの名前の由来とか。かつては藩外移出も、一般人の植栽も禁じられたそうです。
 
 果肉が少なく、種も多いということですから、三宝柑福居袋一つには、きっと何個分もの果汁で作ったゼリーが閉じ込められているのだと思います。販売元である飯島商店の母体を江戸末期まで遡ればお米屋さんで、明治には飴屋三に転じ、やがて信州特産の果物の果汁と寒天を水飴に加える商品を開発し、現在の会社へと発展していったそうです。自然の恵みを大切に、丹精込めて作られているのが、味を通して伝わってきます。


江戸期・志野秋草のお皿にのせてみました。

http://www.misuzuame.com/jelly/subpage/sanpoukanhukuibukuro.htm

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 冬季間のみの製造・販売なので、11月頃からやっと注文できるようになります。爽やかな味わいは、年齢を問わず、お贈りした方に必ず喜ばれるのが、嬉しいです。窓の外の雪を長めながら暖かい部屋で三宝柑ゼリーを口に運ぶ時、この国に住んでいて良かったなぁ、と思います。
 



2012年1月25日水曜日

A ライセンス 中野ブロードウェー

Aライセンス 中野ブロードウェー、早稲田通り側2F階段そば
70年代の空気を漂わせるレトロな喫茶店。しかし、実はAライセンスを持つオーナーのこだわりが炸裂しています。入口に何気に飾られたタイヤは、1969年の日本グランプリに出場した日産R382の優勝車両のドライバー、黒沢元治のサイン入り。壁にはセナ(Ayrton Senna da Silva)やラウダ(Niki Lauda)といったF1ドライバー達のサイン入り写真らしきパネル。天井の、細いパイプで作られた奇妙な形の飾り?は、「世界のグランプリ・レースのサーキットをかたどったものです」と、伝票裏に説明書きがありました。なるほど、そうだったのか... これらのこだわりは、経年とニコチンのコーティングでお互いにすっかり解け合っているので、よぉーく目を凝らさないと、見落としがちです。しかし、きっと解る人には、素晴らしく意味深いメモラビリアで埋め尽くされているのでしょう。

バラエティーに富んだ懐かしの喫茶店メニュー。味も期待を裏切りません。
さて、ドライブは大好きですが、特にF1マニアでもない僕がここを気に入っているのは、美味しいランチが食べられるからです。喫茶店にしては中々豊富なメニュー。今回ここでご紹介しているお料理の他に、ご飯の上に煮込んだお肉のかかったビーフランチやポークカレー辛口、スパゲティーなど、どれも味・ボリュームともに満足できる内容です。

エビドリア 生野菜・スープ付き850円
程よくご飯がブレンドされていて、香ばしくとても食べやすいです。
ハンバーグライス 生野菜・スープ付き880円
イチオシ。ライスもたっぷり。
しかも今時、型抜きライスなのが、なお嬉しい。
ちゃんとした洋食屋さん以上のおいしい味です。
ビーフランチ 880円
ハヤシライスみたいな味でお肉たっぷり。スープ付き。
ナポリタン 生野菜・スープ付き 680円
喫茶店のスパゲティー御約束のケチャップ味に、
チョリソーっぽいスパイシーなソーセージがマッチしています。
最近は頼まないと粉チーズすら出してくれないお店も多いですが、
ここはちゃんと一緒に登場します。2種類のタバスコも親切!
ロースト・コンビーフ・トースト・サンド 550円
なつかしいコンビーフたっぷりで、食べ応えあり。
 あまりお腹が空いていない時には、シナモン・トースト(330円)とおいしい珈琲で寛いだりします。
料理やトースト類は、250円増しで珈琲等のドリンク1杯とセットにできます。僕はいつも珈琲とのセットを注文するのですが、このカップとソーサーの絵柄もレースに関連していることに最近ようやく気が付きました。

レーシングカーの上に寝そべるドライバー?
しかも、この図柄は店内の座席のパーティション上部のガラスにも描かれているのでした。この絵にも何か特別なストーリーが秘められているのでしょうか。僕にはわかりません。この店にはかなら前から来ているのに、まだまだ小さな発見がありそうです。料理が出てくるのに、少々時間がかかりますが、きっと一生懸命作っているのでしょう。待った甲斐のある食事ができます。退屈しのぎには、豊富な種類の雑誌や漫画が置いてあります。
 僕にとってAライセンスの唯一の難点は、禁煙でないこと。しかし、たばこの煙も、この独特の世界の一部と思うことにしています。それもこれも上の3品をいただくための我慢です。ただ、できればランチの時間だけ禁煙にしてほしいなぁと思います。
 ブロードウェーでこの店に行くには、階段で2階に上がってください。1階にはエスカレーターが2台ありますが、どちらも3階直通ですので気をつけて。

 時流に関係なくこうして我が道を行くお店が共存し、サブ・カルチャーのメッカとして頻繁にマスコミにも登場するようになった中野ですが、本当に自分が納得できる商品や料理を提供できる情熱を絶やさずにいることは素晴らしいです。

Aライセンス公式サイト: http://www.nbw.jp/new/detail.php?shop_id=54

(注: 上記のメニューや値段その他情報は、2012年1月25日現在のものです。その後同店は2014年春に新装開店しました。喫煙席と禁煙席が分けられ、更に快適になりました。料理の味とサービスは変わりなく素晴らしいです。)

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2012年1月20日金曜日

ミトラ・チョコ Mitra Chocolate


 今日は予報通り、東京に初雪が振りました。寒いです。こんな悪天候にもめげず遠路、講座にいらしてくれる生徒さんは本当にありがたいもので、白桃のフレーバー・ティーで、温まっていただこうとお出ししました。お茶菓子には、クッキーの他に、最近ハマっているミトラ・チョコもお出ししてみました。

 板チョコなので、普通なら手でポキッと折って口に放り込むか、直接バリバリ食べてしまうのですが、ちょっとお行儀よくカットして、お皿に並べてみました。これは、リタ・トレーディングという会社で輸入しているフェアトレードのチョコレートです。

 ジンジャー・レモンは、本当にその通りの味がしておもしろいです。カカオの含有量が71%と高いので、ビターな大人のチョコレートです。

 僕のお気に入りは、ザックリ砕いたアーモンドの粒が程良く入ったカカオ含有量の55%チョコレート。会社(ミトラ・ティー・ハウス)のホームページを見てみると、「乳化剤や化学添加物を使用せず、ラテンアメリカの高品質なカカオをふんだんに使用しています。白砂糖の代わりに、サトウキビからできた粗糖を、バニラフレーバーの代わりに、マダカスカル島の本物のバーボンバニラを使用しています。原材料は全て、農薬、化学肥料を使わずに育てた農作物に由来します。最高の味覚を引き出すために、じっくりと時間をかけて製造しました。スペイン南部で育ったアーモンドをゆっくりといり、芳しい香りと風味豊かなカカオの味をお楽しみ頂けます」と書いてあります。全く偽りなく、すっきりとした良質のカカオの味わいが後を引きます。しつこさとか嫌味の全くない、純粋な味は、生徒さんにもとても好評でした。

 おいしい味というものは不思議なもので、丁寧に、良質のもので作られたものは、すぐにわかります。ちょっと店や料理、お菓子がはやると値段を上げたり、品質を落としたり、がっかりすることの多い世の中で、こうしたまじめな良質なチョコレートはめずらしい存在です。舌というのは本当に不思議なもので、人間の欲望までわかるのです。
http://www.mitratea.com/

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2012年1月18日水曜日

古瓦と万両の苔玉

 今、講座を一つ終え、一息ついたところです。長期にわたり通ってくださっている生徒さん達の和気藹々としたクラスの雰囲気は、僕にとっても楽しいものです。講座では、いつも内容に沿って様々な古美術・骨董作品を生徒さん達に観ていただくことにしています。自由に触れていただくことで、博物館や美術館のガラス越しでは分かりにくい細部まで鑑賞していただきたい、と思うからです。スライドやDVDも知識を得ていただくには良いので使います。しかし、やはり実物を手にとってルーペで銀化や貫入、気泡まで確認することで、真贋を見分ける眼が養われます。写真の瓦も今回の教材の一つとして使いました。

 
  さすがに手に取るにはズシリと重いです。仏教美術の流れから、最近瓦にも人気が集まっているようです。
 
 これは、天平時代の都、平城宮のもので、まさに井上靖の小説、「天平の甍」です。見どころは蓮弁の形。屋根に乗せてしまえば、下から見上げても詳細等分からないのに、実に美しく仕上がっています。軒平瓦の唐草も素朴で美しい文様です。奈良時代の大らかさが感じられます。

 この瓦は、奈良国立文化財研究所所蔵のものと同じです。


 今日は生徒さんの一人が、「琉球すずめうり」をくださいました。小振りのプチトマトくらいの大きさで、スイカのような柄。赤と緑の実が蔓に付いています。ものすごくカワイイです。早速写真を撮りました。種を採る為に乾燥させてありますが、実際は作り物かと思うほど鮮やかな色合いです。種から育てるのは難しいそうですが、なんとか発芽させて、来年のクリスマスの彩りに添えたいです。


 カメラを出したついでに、万両の苔玉も撮影。今年の正月から飾っています。

 「日光はもちろん、外気にもちゃんと当ててやること...でも直ぐに鳥が赤い実をつついてしまうよ」、と園芸店で注意されたので、気が気ではありません。ベランダの内側に置き、昼間は寒いのも我慢して窓を開けてやります。なかなか世話の焼ける子です。来年も元気でいてくれるかどうか...それは僕の根気次第なのでしょうが、ちょっと心配。

 万両を乗せている皿は、江戸時代の瀬戸輪花皿で、もともと茶道で菓子皿に使われてきたものでしょう。渋めの色調に、優しい色合いの和菓子が映えるものです。


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2012年1月4日水曜日

氷川神社で初詣、石神井公園を散歩

あっという間に正月休みも過ぎましたが、初詣もまだだったので、子供のころからの馴染みの石神井公園の氷川神社にお参りに行きました。

 せっかく来たので、昔に駄菓子を買ったりしていた石神井公園の茶店で、軽食をとりました。いわゆる和風カレーというか、お蕎麦屋さんのカレーというか、僕の年代の日本人なら、懐かしいと思う味わいのカレーです。本格的なインドカレーが多い昨今、貴重な存在。


 楽しみにしていた豚汁は、もう作っていないと知りがっかり。確か一杯400円未満だったと思うのですが、具が13種類も入って、すごく美味しい豚汁でした。最近は野菜の値段が高騰しているので、赤字になるとか。この寒空の下、鄙びた景色を眺めながらいただく熱々の豚汁が良かったのに。値上げしてもいいから、また作ってね、となじみのおばさんに頼んでおきました。

 昔は他にも何軒か食事の出来る店があったのですが、今はこの一軒のみ。看板から駄菓子のガラス箱まで、相変わらず昭和レトロのまま。かまわれることのない、のんびりとした店です。日暮れも待たずに店仕舞するのが困りものです。今日は営業中に入れたので、甘酒も飲めました。メニューにはこの他、味噌おでんや麺類、丼物などたくさんあります。

   さて石神井公園は、三宝寺池、石神井池の二つの池を中心としていますが、僕は武蔵野の自然を感じさせる、落ち着いた静かな三宝寺池側が大好きです。少年時代にはこの公園で開催される模型ボート大会に参加したり、昆虫採集をしによく来た思い出があります。今は、お気に入りの双眼鏡(2011/9/4投稿)でバードウォッチングをするのが楽しみです。かわいくてきれいな翡翠色の羽を持ったカワセミが人気で、撮影に来る方が後を絶ちません。

 石神井城跡とそれにまつわる遺跡がひっそりとあります。私は歴史が好きですから、この古城跡を歩くのが一番心が休まります。豊島区の名前の由来になった城主・豊島氏は、平安時代からこの辺りに勢力を張った豪族で、江戸城をひらいた大田道灌との戦いに敗れても、この城を明け渡そうとせず、再起を計りますが攻められ滅亡...その後、城は破壊され、今は土塁が室町時代の往時を物語るのみです。
 小学校4年の頃に観て感動した黒澤明監督の出世作「蜘蛛巣城」を彷彿とさせるところがこの城跡にもあります。芭蕉は奥州平泉に立ち寄った際、かつて義経が討伐軍と壮絶な戦いを繰り広げたことなど嘘のような静寂な風景を見事な句に詠みました。冬空の下、夏草ならぬ枯れ草の合間を猫が気ままにすり抜けるこの石神井城跡の風情も、正に「兵どもが夢のあと」です。

 ここに散歩に来る度、昔いた猫と同じ特徴の猫たちに出会います。今回一緒に写真撮影をお願いした猫もその一匹。少々御機嫌斜めだったらしく、しばし格闘の末、猫もタコも複雑な表情のままパチリ。気を取り直して、池の鴨を眺めたり、餌も無いのに手を叩くと寄ってくる鈍色の鯉を見て楽しみます。
                         その昔、豊かな湧水を誇っていた三宝寺池も、現在は地下から汲み上げる水を足すことで水位が維持されているそうです。


                                                                                     去年大掃除をしていたら未使用のスケッチブックが出てきたので、かなり久しぶりですが、水彩スケッチをしてみました。まだ寒くて手がかじかんだのと、つるべ落としといわれる夕方の移ろいやすい色彩を描きとめる技量もないため、すぐに陽が沈んでしまいました。春にまた時間を見つけてゆっくり描きに来たいなあと思いました。


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2012年1月3日火曜日

2012年 お正月

 
 
 2012年元日、息子家族と新年を祝いました。南宋時代の竜泉窯青磁皿、朝鮮時代の鶏竜山の徳利、九谷初期民山窯の長皿、古唐津の皮鯨手小皿、桃山時代の志野のぐい飲みに思うがままに御節を盛り付けて、春日大社伝来の根来の室町盆に並べてみました。デザートの柿は、江戸時代の瀬戸盛り皿に。お雑煮は、関東風の鶏出汁です。亡くなった母の大好物で、よく作りました。


  僕の祖先は、秋田でもともと佐竹藩の右筆でしたが、東大の先生のお話では一族は重要なことを任されていたようで、藩から命じられて鉱山開発などをしていたようです。佐竹は幕府に内緒で鉱山開発をしていたようです。ですから現在の秋田大学には全国唯一の鉱山学部があるのです。 父の父、すなはち私の祖父は北海道余市の銀山で鉱山技師をしていました。鉱山技師というのは先祖伝来の技術で、現代と違って一代ではなれないものです。
 それから江戸に移住するまでは長い話になりますが、いろいろな話が伝わっています。

  中野に住むようになったのは、母方の祖父の代です。関東大震災後に地盤がしっかりしているから、と一族でこちらに居を構えたそうです。それは正解で、中野は地盤がしっかりしていて安心していられます。人類は生活の糧と安全を求めて移住を続けてきたわけですが、住み慣れた土地を離れ、築き上げたものを失い、大切な人達と分れて新天地で生きることがいかに大変なことか、震災で目の当たりにしました。昨日は娘夫婦と、そして今日もこうして長男夫婦と孫とともに暖かい食卓を囲めることは文字通りありがたき幸せです。

 私の手と一緒に撮影した小さな手は、去年孫の男の子が生まれたときのものです。あれからはや一年がたち、今は元気で歩き回っています。上のお姉さんもまた成長しました。いろいろな意味でこの子達が安心して暮らし続けられる日本になってほしいと思います。


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