今回の旅行は10月末から12月始めまで、合計で35日間になりました。時期的な問題、到着がベルリンという条件のもとに航空会社を選ぶとロシアのアエロフロート航空にならざるを得ませんでした。運賃の安さも条件の一つです。というわけで、ロシアのシェレメチボ空港でトランジットしたのですが、空港は新しく、案内掲示などもしっかりしていて問題はありませんでした。事前にインターネットで見たいろいろな情報の中には、旅行者がパスポートコントロールに殺到して列をなし、恐ろしく時間がかかるから、飛行機から降りたらとにかく走りなさい、などと書かれていたものもあったりして、ちょっとドキドキでした。しかし、改善されたらしく、実際は特に不便は感じませんでした。ただ、搭乗直前にゲートが変更されることがあるのが日本と大きく違う点です。一応ロシア語と英語でアナウンスが流れるのですが、うっかりしていると聞き逃しかねません。ですから、電光掲示板からは目が離せません。これはドイツやフランスの鉄道、飛行場でもすべて同じですから、日本の交通機関は世界に類を見ない正確さで運行されていることに改めて驚異とありがたみを感じます。それから余談ですが、アエロフロートはフライト・アテンダントが美人ですね。飛行機の中と空港で見た限りではありますが、男はちんまりして大したことない一方、女性は白系ロシア美人が多かった、というのがタコの感想です。
こうして、シレメチボ空港は余裕で問題なく通過できました。いよいよベルリンのシェーネフェルト空港。ここも元ロシア領で発展が遅れたせいか、閑散とした感じでした。案内所(iのマーク)でウエルカムカードを買って、列車に乗り込みます。この列車が頑丈な電車で、ものすごく重そう。ウエルカムカードは便利なもので、ベルリン近郊のすべての交通機関が3日間乗り放題。切符を買う手間が省けまるのでお勧めです。ドイツならどこの都市のインフォメーションにも観光客用に販売しています。これを見せれば飲食店から劇場、博物館などはかなりお得になります。
(写真は旧東ドイツ・アレキサンダープラッツ駅近くのホテルの部屋から見た電車線路とベルリンのシンボルのテレビ塔)
僕は小さいころから父の蔵書にあったひげ文字の戦前のドイツの写真集に親しんできました。ビスマルクとかヒンデンブルクの時代の古きよきドイツ。初期の飛行機や飛行船。こうした子供には異次元の写真集はタコの最初の「愛読書」でした。ですからドイツにはなにか縁を感じます。高校ではドイツ語を学び、大学もドイツ語で受験し、専攻もドイツ文学科へ進学しました。そんなこともあり、ドイツやヨーロッパは幾度も訪れましたが、ベルリンは今回が初めてです。東西分裂の悲劇に見舞われ、ドイツの首都でありながら発展が遅れ、交通の便など観光の為の環境整備も遅れていたので、今まで来る機会がありませんでした。そんなベルリンに到着した時は、「やっと来れた!」という感じでした。自分の人生の「穴」を埋める意味合いも大きいと感じていました。
ベルリンはヒトラーの総統司令部があったので、徹底的に爆撃され、戦闘で破壊されました。ヒトラーについては、面白い映画があります。2004年公開の「ヒトラー最期の12日間 Der Untergang」という映画です。ヨアヒム・フェストによる同名の研究書と、アドルフ・ヒトラーの個人秘書を務めたトラウドゥル・ユンゲの証言を土台とした脚本です。この個人秘書の証言の中立性については疑問視される点もあるようですが、稀代の独裁者を一人の人間として綿密に描き出すことにチャレンジしている点で評価できる映画です。ヒトラーを演じたドイツの国民的俳優、ブルーノ・ガンツがとにかく強力です。歴史上の人物を主人公に据えた映画となると、相応の俳優がキャスティングされ、その力量を存分に発揮した見ごたえのある作品が数多くあります。王族であれ、ギャングであれ、良くも悪くもその人物がどのように形成されていったのか、観る者を納得させる演技と筋立てになっているのが常です。しかし、ヒトラーを描くとなると、同情や共感を呼ぶような演出は、一切許されません。その不気味なカリスマ性で群集を沸かす、ナチスの党大会での演説の場面なども使われていません。息苦しくなるような威圧感を漂わせつつ、最期の12日間に煮詰まって行く狂気を滲ませるブルーノ・ガンツのヒトラーには、まるでドキュメンタリーのような凄みがあります。「この手の映画はヘビーでちょっと・・・」、と言っていた友人も、さわりだけ観るつもりが、最期まで引き込まれてしまったそうです。
総統司令部の地下には周囲すべて3メートルの鉄筋コンクリートで固めた巨大な地下室があり、そこからヒトラーは命令を出して全軍を指揮していたそうです。映画は、ほとんどこの地下壕で展開されるので、その閉塞感とブルーノ・ガンツの濃さが相まって、見る側も消耗していきます。とうとう追い詰められたヒトラーは前日に結婚式をあげた愛人、エバ・ブラウンと自殺して、庭でガソリンで焼却させます。ブランデンブルグ門の近くに首相官邸と総統司令部がありましたから、その場所はおおよその見当はついています。ただ、どの地図にも、案内書にもその地下壕については何一つ掲載されていません。ドイツ政府はヒトラー崇拝熱やネオナチの台頭を恐れているのでしょうか。その総統司令部跡を探すのも今回の目的の一つでした。
(写真はベルリンの美しい晩秋のようすです)
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