2013年1月30日水曜日

マルティン・ルターと桃山文化


  11月1日、ベルリンを拠点にして少し周辺を歩いてみようと思いました。かねてより訪ねてみたかった場所の一つがマルチン・ルターのいたヴィッテンベルグ(Wittenberg)です。その日はヴィッテンベルグを見学して、その足でバッハのいたライプチヒに向かう予定をたてました。マルチン・ルターに興味をいだくのは、彼のなした宗教改革の炎が大きく当時の世の中を変革する方向へ導いたからです。中世キリスト教の教皇権の世界から、王権の確立、そしてフランス革命などを経て共和制国家の出現から現代の民主政治に至る大きな流れの転換期です。そしてそれが結果的に日本の桃山時代の文化の成立に大きく影響を与えたからです。

 当時、各国での王権の伸長がローマンカトリックの教皇権の衰退を招いていましたが、分裂続きのドイツでは依然教皇の権威が強かったのです。そうした折にイタリアの富豪、メディチ家出身のローマ教皇レオ10世はペテロ寺院の修築を考え、その費用をドイツから捻出することを考えて、免罪符の販売を許したのです。人々の無知に付け込んだ免罪符販売使節たちが、悔い改めなくても免罪符さえ購入すればどのような罪も「購入」という善行によって許されると説いてお金を集めました。




95ヶ条の要求をかかげた扉のある教会
  それに対して敢然と反対したのがヴィッテンベルク大学のマルチン・ルターでした。1517年ヴィッテンベルク教会の扉に95か条の意見書をかかげ、ローマ教皇に反対しました。彼は「救い」はただ信仰によってのみ得られるものであって、聖書のみを至上のものとすべきであると主張しました。後にルターは新約聖書をドイツ語に翻訳し、それが現代ドイツ語の成立につながる普及となったといわれます。15世紀半ばのグーテンベルグの活版印刷術の発明が聖書の普及に大きく貢献したとされています。その後、ルターの教えは教皇に対立する新興領主に利用され、教皇がルター派の弾圧をしようとすると、領主たちが「信仰は個人の自由であり、権力で強制してはならない」と抗議(プロテスト)したことによって、のちにルター派のことをプロテスタントと呼ぶようになりました。

ルターの書斎
  ルターの改革は燎原の火のように燃え盛り、信仰の広がりをみせました。その火はイギリスにも飛び火し、ヘンリー8世の皇后との離婚問題にからんでイギリス国教会の成立をみました。カトリックでは離婚を禁止され、皇后と離婚できなかったヘンリー8世は新たに独自の教会を作り、離婚を可能にしたのです。宗教改革があったからこそこうしたことも可能となったのです。皇后との離婚に成功したヘンリー8世は晴れてかねてからの恋仲のアン・ブーリンと結婚して、そこに生まれたのが近世イギリスに繁栄をもたらすエリザベス1世であり、現代までつながる家系となるのです。

 プロテスタントの大きな台頭の結果、カトリックは内部の引き締めと粛清を行なわねばならず、軍隊的組織によって統一されたスペインのイエズス会は新たな信者の獲得と勢力拡大の使命を担って宣教師を多く海外に送り、失われた教皇権の回復と収入の補填先の獲得に乗り出したのです。それがアジアにまでやってきて、日本にまで進出したフランシスコ・ザビエルで有名なイエズス会なのです。聖堂などの金銀極彩色のきらびやかな装飾絵画や西洋の文化、ガラス、食文化、科学がもたらされました。まさにバチカンのシスティーナ礼拝堂の美術です。

 日本の戦国時代には「かぶく」とか「バサラ」(ともに異様な風体で人々を驚かせた)という風潮がはやりました。それは戦場での活躍を主君に認めてもらいたいがために派手で目立つ軍装をし、恩賞をもくろんだからです。しかしそれが戦国の無頼文化の中に浸透してきたことと、宣教師がもたらした教会内部の豪華な装飾絵画が大きく信長などに取り入れられた結果、桃山文化の成立をみます。安土城、秀吉の聚楽第、大阪城などなどに大きな影響を与えました。

デスマスク
  ルターの改革の炎は形を変えて日本にキリスト教をもたらし、西洋の文化をもたらしました。しかしキリスト教の自由、平等、博愛の精神は、そののち日本にとっての封建制の確立に邪魔な存在となり、サン・フェリペ号事件を境に日本を植民地化しようとたくらんでいた宣教師たちの陰謀が暴露され、180度急転直下まさに次なる秀吉のキリスト教禁止令と宣教師の処刑に繋がって行き、島原の乱にてやっと収束します。  また、派手な文化はそののち日本芸能に新たな一展開をもたらしました。歌舞伎です。出雲の阿国によってはじめられた歌舞伎踊りは新たな庶民芸能の世界に発展して行きました。ルターによる宗教改革が思わぬ方向に発展して、日本に影響を与え、日本史を揺るがす事件に大発展したり、歌舞伎の成立にも影響を与えたという事実がなかなかおもしろいと思います。

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