2013年1月2日水曜日

「ぼろ(BORO)古布の美」 古裂の収集の楽しみ


 
 いつのころからか、はっきりしませんが、僕が露店修行をしていた頃ですから、もう25年は経っているでしょうか・・・藍染のぼろぼろの布が露店に出ていたことがありました。つぎはぎだらけのその野良着を見て「ああ、いいなぁ」と思ったものでした。使い込まれたものって力がありますね。興味を持つと集めて研究したくなりますが、こうした「ぼろBORO」は現在でもますます外人たちに人気があります。少し前はフランス人が収集していました。今はニューヨークでファッション関係の若者やデザインナー、クリエーター達に「BORO」として人気があり、日本に買い付けにくる業界人も多いと聞きます。「BORO」というタイトルの本も出版されています。 そういえばジーンズの端切れをパッチワーク風につなぎ合わせて面白い生地を作り、それでコートや上着を作るとなかなか味わい深いものができます。さらに古い生地を使えば、それはもうすごい力を服に与えますから、存在感が普通の生地とはまったく違います。 服やファッション関係ということにこだわらずにコレクションの対象として楽しむこともできますし、コンクリートの打ちっぱなしの壁にタペストリーのように掛けても強烈なインパクトがあります。

 先日(といってももう去年になってしまいましたが)開催された平和島の骨董まつりに、シブい趣味の商品を出す知人の骨董商も出店していました。僕は偶然そこに行き合わせ、とても味わい深い、半端ではない古布に巡り合いました。一目見ただけで引きつけられました。かつてタコが見た中で最高の雰囲気、味わい、古さを兼ね備えた「ぼろ布」です。25年見てきた中で秀逸なものでした。その友人も、いままで300枚以上扱ってきたが、これに勝る古布はないと断言していました。だいたい古布の命は保存状態にもよりますが、良いもので100年が一つの限界という見方があります。要するに保存状態がきわめて悪い場合はすぐに消滅するのでしょうが、状態がいいとかなり長い年月ぼろぼろになってもまた継ぎはぎされて使われます。継ぎはぎに継ぎはぎを繰り返して使う。この連続で、徹底して使い込む。そうした観点から、この古布はおそらく江戸時代をかなり遡れるものと思います。

 柳宗悦の民芸論に「用の美」というのがあります。これは家屋そのものにしてもお椀類などにしても、またさまざまな囲炉裏端の道具などにしても、使えば使うほど美しさが増すということです。民衆の日常道具のうちで、先祖から伝わる道具などの中には何代も前から使われてきたものが今でも最前線で使われています。合理的で使いやすいということも美につながります。愛され続けて、使われてきたものには、使いやすいという合理性の中に美しさが感じられるというのが柳宗悦の民芸理論における重要な主張です。これが「用の美」です。

 また日本には古来、枯れゆく美、消滅する美、消えゆく美という世界があります。仏教的空の世界では、存在するもの、色形あるものは必ず滅するという教えがあります。その姿が消えゆくときに光芒を発する一瞬のきらめきが滅びの美とされます。茶道における「わび、さび」などもその考え方の延長線上にあります。 僕はまさにこの古布BOROがその消えゆく最後の美の世界を見せていてくれているように思います。

 友人の骨董商にお願いして、この一枚の「BORO」を自分のコレクションの一つに加えました。(約145センチ×約145センチ) たとえば琳派の作品に観る古美術としての美。そしてここでご紹介した古布の消えゆく美。ともに美でありながら性格を全く異にしています。たとえば琳派の作品は、もともと美術品として生まれ、伝来してきたものです。由緒が正しい美術品といえます。それに比べて古布は生まれは民衆の生活に供されるために、どこで作られたものかもわかりません。そして長い間、消耗品として酷使され続け、擦り切れ、破れ、継ぎはぎされてまた使われる・・・こうして大半は長い酷使の時間の経過の中で消滅していったに違いありません。しかしそれらのなかから今まで残った数少ない一枚、おそらくこれまで生産された布の何百万分の一がこの残ったぼろ古布で、それゆえになんとも愛おしく美しく感じるのです。たまたま残ったものといえます。それらはともに全く正反対の世界を過ごしてきましたが、究極の「美」の一つであることに変わりはないと思います。美術品と民芸の一線はまさにここにあります。美とは美しいと感じてくれる人間にある感情であり、絶対基準はありませんから、規定はできませんが、その判断基準を自分なりにつけて行く努力を我々はしないといけないのです。それには多くの世界の物を真剣に「観る」ことによって比較研究し、どちらが美しいかの自分なりの判断基準を高めてゆくしかないのです。
 

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