2012年5月2日水曜日

パイプの魅力(Ⅲ) キャラバッシュパイプCalabash Pipeと古いブライヤーパイプBriar Pipe


  一連のパイプの連載に、日本だけでなく世界のみなさんから驚くほど多くのアクセス をいただき、パイプの根強い人気を嬉しく思います。読んでくださってありがとうございます。これからも「タコの散歩道」に遊びにいらしてください。

 タコのパイプとの付き合いは、前にも書きましたがかれこれ45年になりましょうか。その頃は学生から社会人になる頃で、高級なものを買えるお金も無かったですから、憧れのパイプなどを銀座の喫煙具専門店「菊水」や「佐々木」、原宿・パレフランスのジェームズ1世、新宿の加賀屋などで見て、ため息をついていました。そこでもっぱらタバコの風味、味わいに工夫をこらし、いろいろなパイプ専用タバコをブレンドして楽しんでいました。ロング・バーニングという、火を消さず長時間燃焼させる技術も身につけたりしました。タコの当時の最長喫煙時間は5グラムのタバコで1時間23分というのを覚えています。
 当時のタコの勤め先は教育関係の出版の他、塾なども経営していました。第二次ベビーブームなどで会社の経営は毎年上向いていました。設立当時に入社し、創設の7名に入っていたので、頑張っただけ給与も増えたし、地位も上がり、ボーナスもびっくりするくらいもらえました。そのかわり社員数が少ないので、徹夜などは当たり前。忙しいときは3日徹夜のときもありました。いつも夜11時から12時に帰宅し、朝6時から7時には出勤していました。あの頃の流行語でもあった「モーレツ社員」そのものの生活でした。若く活力に満ち、仕事への興味と楽しさ、情熱があったからこそ可能だったのだと思います。労働基準法などとはまったく無縁の勤務状況でした。今は1日の徹夜でも体調が狂い、だめです。
  そんなことで、たまの休みには古美術の研究や、他の好きなことに時間を使いました。金銭の恵みを受けたことから、さらに多方面の研究、購入に拍車がかかりました。この時期、以前の「パイプの楽しみⅠ・Ⅱ」で書いたホルベックHOLBEKやミッケJOHN MICKE、ダンヒルDUNHILL、チャラタンCHARATAN、S・イヴァルソンSIXTEN IVARSSONなどのすばらしいパイプの数々を手に入れることができる経済力を持つことができたのです。


 ここに掲載したパイプはキャラバッシュパイプCALABASH PIPEといって、アフリカあたりの瓢簞を栽培途中から加工してこういう形に徐々に仕上げていくといいます。従って大きなものの中は空洞なので、いわゆるクールスモーキングが楽しめるということ、コナン・ドイルSir Arthur Conan Doyleの探偵小説「シャーロック・ホームズSherlock Holmes」シリーズでこのパイプをシャーロック・ホームズが愛用していることでも有名です。

タコのこの小型アンティークのキャラバッシュ・パイプは、ボウルを覆う銀部分のシルバー・ホールマークSilver Hallmarkから制作年代が1910年であることが判明しています。メシャムのボウルを付けている昨今のキャラバッシュ・パイプと異なり、ボウルも瓢箪本体でできており、上面に湾曲した覆いが被せてあります。



最初のころは、このように小型で、ボウルもキャラバッシュ本体で作られ、その上に銀の覆いが付けられていたのでしょう。ほぼ100年以上経過しています。多くの人達に愛用されたようで、、ボウルにタールが染みこみ、飴色のいい味わいに変化しています。マウスピースは水牛の角製bison horn mouthpieceで、竹の節状に削られ、当時の東洋趣味を思わせます。なかなか凝った洒落た作品と言えます。

もう一本は、ブライヤーBriar(地中海地方に生えている、ホワイト・ヒース科の木で、その根の部分を使うroot burl of heath/Erica Arborea)。 ビリヤード形式のまっすぐなステムは、やはり使われているうちに破損したのでしょう、飾りも兼ねた銀製品で修理されています。そのホールマークによれば、銀の制作は1896年。 



マウスピースはオレンジ色をした練り物のようです。ボウルの口縁にもシルバー・ホールマークのある銀の覆いがあり、調べると1890年の刻印でした。
 すなはち、このパイプは1890年及び1896年と年代の異なる2種類の銀製装飾を持ってることになります。最初からブライヤーのボウルに銀の覆いをすることはないので、使っていてボウルを焦がしたか、落とすかして傷つけ、覆いを必要としたと思われます。制作年代は1880年代と推測します。ブライヤー・パイプでもかなり古い部類に入るでしょう。飾り気のない、地味なブライヤーです。素朴ながらも、大切にされてきたことを2か所の銀の修復が物語っています。 1868年が日本の明治元年ですから、西郷隆盛の西南戦争から華やかなりし鹿鳴館時代、そして日清戦争に向かうあたりです。日本が近代化、軍国化してゆく時代・・・ そんなことを考えていると、このパイプは随分と当時の日本の同盟国であるイギリスで大切にされて生きてきたんだなぁと愛おしくなります。


日本骨董学院 http://www.kottou-gakuin.com/

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